No.001
一昼夜のあわい。

しとしとと雨の降る闇夜に、すこしだけ先に光を放った窓があった。梅雨の時節である。水溜まりを避けながらゆっくり、あそこに向かってゆき、扉の前にたどり着いたその時、勢いよくドアが開いた。長髪をたなびかせた、気丈な男がノブに手をかけていた。そうして、「やあ」と言って、私を、部屋に迎え入れた。
 
机を囲った私たちは、人々がほとんど等しく過ごすはずの一昼夜のあいだについて話していた。それは、太陽がのぼり、日の入り、月が姿を現し、空が白んでいく時間の移ろいの不可思議さ、あるいは、流るる時と私たちの、なめらかな関係についてだった。
 
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自室で過ごす日々が続けば続くほど、もっとも客観的な時間の単位を刻む、時計の存在が際立ってきた。人類にとってきっと時間は、ほとんど普遍的なものなのだ。
 
が、私たちが胸中で感じている時間と、その移ろいというのに、誰とでも共有できる明らかな境界が存在しているのだろうか。何時何分何秒という一定の数値で説けるものなのか。そんなにもカウンタブルなのか。私たちは頭を抱えながら、だが彼は、心のどこかでこれらのことを確信をもって否定しているような気がした。
 
このあとすぐ、外出の予定がなかったとある朝、庭先の木々の萌芽を発見したことを嬉しそうに語ってくれた。
 
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一日に朝と昼と夜があるとして、もし朝に目覚めたとして、目に映ったり、耳に届いたり、感覚することができるあらゆるもの、それらが自分の中に流入してくることによって、変わらないものと変わっているものを知覚することによって、私は、私の一日のはじまりを生きるのではないだろうか。
 
現在、というか、起こった瞬間に過去になり、感じた瞬間に未来の感情を喚起する、この瞬間。白昼夢のようなものかもしれない。が、あらゆる、ぼんやりとした“あわい”は、むしろ存在する。おそらくグラデーションを描いていて、糸と糸が織りなす、複雑で、曖昧な、しかし、心が惹かれるなにかと似ているのではないかと、言葉と言葉を交わしながら気がついた。窓を打つ雨音を耳に入れながら、私たちは深い相槌を打った。
 


Words: Tatsuya Yamaguchi